LOGIN第267話 みんな忙しいんだから!
「はい、もうおしまい! みんな忙しいのよ。また今度ね」
蓮が何か言う間もなく、雅はさっさと通話を切ってしまった。
真っ暗になった画面を見つめる蓮の胸に、やりきれない怒りが込み上げてきた。
――悔しい。
可愛い嫁は将棋に夢中で、自分のことなどまるで気にかけてくれないなんて。
そのうえ、母親にまで通話を切られてしまった。美月とはまだほんの数言しか話せていないというのに。
蓮は大きく息を吐くと、立ち上がって浴室へ向かった……
一方、美月は総一郎とさらに二局指したところで、雅に声をかけられた。
「もうこの辺にしましょう。時間も遅いし、美月ちゃんは今日一日
第270話 嫁を独り占めしたい!美月は、本当に何と言えばいいのか分からなかった。蓮がまた延々と喋りそうだったので、彼女は慌てて話題を変えた。「私、しばらくこっちに泊まるわ」「しばらく泊まるのはいいさ。俺が帰ったら迎えに行くから、一緒に帰ろうな」――やはり、二人きりで過ごすのが一番。だって、そっちでは……美月を独り占めできないからなじいさんとばあさんに二人の時間を取られるだけでも厄介なのに、何より怖いのは母さんだ。おそらく、美月の時間の八割は彼女に持っていかれるだろう。そんな状況で、二人きりで過ごす時間なんて、どこにあるんだ。だから、そっちに住むなんて絶対に嫌だ。せいぜい、一、二か月に一、二度泊まるくらいでいい。「分かったわ!」美月はあえて反論しなかった。――帰ってきてから、また話せばいい。どこに泊まっても構わない。神崎家の方々は、皆よくしてくれる!だからこっちにいても、少しも居心地が悪くない。それでも、相変わらずお姫様のような暮らしだ。美月があっさり了承したので、蓮は当然、上機嫌になった。「こっちの用事が片付くまで、あと三、四日はかかりそうだ。この数日、一人で寝かせることになって悪いな」美月は思わず言葉を失った。「&helli
第269話 俺の名誉を傷つけるな!翔太のこわばった顔には、驚きと信じられないという思いがありありと浮かんでいた。――今、何を聞いた?いや、俺のあの澄んだ笑い声が……どうして「ゲラゲラ」なんて言われなきゃならないんだ?この夫婦、いったいどうなってるんだ?二人とも……俺を人間扱いする気がないのか?この二人がなぜ惹かれ合い、夫婦になったのかようやく分かった。要するに、二人とも根っからの悪人夫婦ってわけだ。どうしてこんなに遠慮なく、俺の純粋な心を傷つけられるんだ?まったく、ひどすぎる!「うわぁ……美月、蓮に悪い影響を受けないでくださいよ!」――昔はあんなに純真で優しい人だったのに!俺を見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめて、おどおどしてたのに。それが今じゃ……こんな言葉まで口にするんだから。絶対、蓮の野郎に悪い影響を受けたに違いない!そのとき、蓮が翔太の座席の背もたれを蹴り、声を張り上げた。「おい、ちゃんと話せよ! 俺はこんなに根っからの善人なんだぞ? それなのに、なんで俺が美月に悪い影響を与えたってことになるんだよ! これ以上俺の名誉を傷つけるなら、ぶん殴るぞ!」「お前のあの笑い声、『ゲラゲラ』でぴったりだろ? 何が悪いんだよ。美月が心優しいから、わざわざオブラートに包んで言ってやったんだ。なのに、まだ不満なのか?」
第268話 さっきからゲラゲラ笑ってる今回は美月のほうからビデオ通話をかけた。蓮はすぐに応答した。「さっきまで風呂に入ってたのか?」美月は頷いた。「ええ」ふと、画面の背景がいつもと違うことに気づいた。「車の中なの? どこへ行くの?」「今、クラブに向かってるところだ」――クラブへ向かってるってことは、何か用事があるんだろう。それに、車内には蓮一人じゃないみたいだ。「じゃあ、先に用事を済ませて。もう切るわね……」その言葉に、蓮は慌てた。「待って! 切らないでくれよ。別に忙しくないから。クラブまであと三十分はあるし、ゆっくり話せるだろ。ちょうど車の中で暇だったんだ」我ながら賢い選択だったと、蓮は内心ほくそ笑んだ。――今日は運転を人に任せておいて正解だった。自分でハンドルを握っていたら、こんなふうに美月とゆっくりビデオ通話なんてできなかっただろう。すると、前の座席にいた翔太が、突然口を挟んだ。「美月、もう少し蓮に付き合ってやってくれよ。さっきから何度も電話してたんだ。出てもらえないから、抜け殻みたいになってたんだぜ」蓮は曲げていた足を、前の座席に向かって勢いよく蹴り出した。「うるせえ、黙ってろ! 俺が嫁とビデオ通話してるんだ。部外者がいちいち口を挟むな!」&nb
第267話 みんな忙しいんだから!「はい、もうおしまい! みんな忙しいのよ。また今度ね」蓮が何か言う間もなく、雅はさっさと通話を切ってしまった。真っ暗になった画面を見つめる蓮の胸に、やりきれない怒りが込み上げてきた。――悔しい。可愛い嫁は将棋に夢中で、自分のことなどまるで気にかけてくれないなんて。そのうえ、母親にまで通話を切られてしまった。美月とはまだほんの数言しか話せていないというのに。蓮は大きく息を吐くと、立ち上がって浴室へ向かった……一方、美月は総一郎とさらに二局指したところで、雅に声をかけられた。「もうこの辺にしましょう。時間も遅いし、美月ちゃんは今日一日仕事だったんでしょ? しかも、こんなに長く将棋に付き合ってくれたんだから、疲れたわよね。また今度にしましょう」「私は大丈夫です。疲れていませんよ」美月は本当に気にしていなかった。初心者相手なら、長く指していると飽きるかもしれない。でも、強い人との対局は違う。指せば指すほど楽しくなるものだ。義父がまだ続けたいのなら、美月も喜んで付き合うつもりだった。総一郎は少し名残惜しそうだったが、それでも将棋盤を片付け始めた。「続きは明日にしよう」「はい!」美月は素直に頷いた。将棋を片付け終えると、祖父母もそろそろ休むことにした。二人にとっては、もう十分に夜更かしした時間だった。
第266話 目は大丈夫?その言葉を聞いた蓮は、やるせなさでいっぱいだった。――いや、違う。「……美月が、なんでそこにいるんだ?」雅は息子をぎろりと睨みつけた。近くにいたら、思いきりビンタしていたところだ。――このバカ息子!睨んだだけでは足りず、雅はさらに目を吊り上げた。「何てこと言うのよ! ここは美月ちゃんの家よ。帰ってくるのが当たり前でしょう?」蓮は露骨に苛立った様子で、深く息を吸い込んだ。「母さん、美月に会いたいんだ。代わってくれよ!」――これが実の母親のすることか?息子が嫁に会いたがっているのに、邪魔をするなんて……まるで意地悪な姑じゃないか!ちょうど機嫌を損ねていた雅は、息子の願いを聞く気などなかった。ふと画面に映る息子の格好に気づき、呆れたように言い放った。「ちょっとあんた、少しは恥を知りなさいよ! 服を着なさいよ! まったく、目に毒だわ!」蓮は絶句した。「……」――目の毒だと?俺よりいい体をしている男なんて、この世にそうそういるものか。何しろ、腹筋は見事に八つに割れているんだぞ!それを嫁の前でけなすなんて、息子のイメージを台無しにするようなものじゃないか!これは絶対に黙っていられない。&
第265話 俺の可愛い嫁はどこだ?源一郎は、すっかり上機嫌になった。「真一、書斎からわしのあの将棋盤を持ってきてくれ」厳原真一(げんばら しんいち)は、源一郎の専属の付き添いだった。何しろ、歳が歳だから、身の回りの世話をする者が一人は必要だった。指示を待つまでもなく、近くにいた執事がすぐに使用人へ台を運ばせた。美月はそばに歩み寄り、席に着いた。しばらくすると、真一が将棋の駒一式を持って戻ってきた。「今日は、わしと何局かやろうか」美月は素直に返事をした。「はい!」まだ六時を少し過ぎたばかりで、夜は長い。とはいえ、年寄りは早寝だ。遅くとも八時には休むから、二時間ずっと将棋を指し続けるわけにはいかない。美月は平気でも、年寄りの体にはさすがに堪えるだろう。将棋盤が用意され、いよいよ勝負が始まった。総一郎は普段、この時間になると書斎に戻って仕事をする。何しろ、あれだけ大きな神崎グループを仕切っているのだから、毎日の仕事量も相当なものだ。だが今日は、すぐに二階へ上がろうとはしなかった。そのまま二人のそばに立ち、対局を眺めていた。将棋が分かる者にとって、対局を見ているのはなかなか面白いものだ。総一郎も、美月を褒めずにはいられなかった。「美月、本当に将棋が強いな。大した